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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)168号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立の争いのない甲第二ないし第四号証、及び第一〇号証によれば、本願明細書に記載された本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のとおりであることが認められる。

(一) 本願発明は、複写シートの表裏両面にわたる複写像の位置を、一方向に揃えるようにした両面複写装置に関する(本願明細書第四頁第九行ないし第一二行、昭和五九年一月二六日付手続補正書第一七行、昭和六一年二月二一日付け手続補正書第二頁第四行ないし第八行)。

字画像形成位置が原稿シートの同一方向からみて対応一致している二枚の片面原稿シートを用いて一枚の両面複写物を得る場合、従来の両面複写装置では転写シートの両面にわたる複写像、すなわち、有効画像形成領域の位置が互にずれてしまう(綴代が表裏両面で一方向に揃わなくなる。)という問題が生じる。この問題は、字画像形成位置の関係が前記二枚の片面原稿が表裏に描かれている関係にある一枚の原稿シートを用いて、一枚の両面複写物を得る場合も同様であつて画像不一致を生ずる(本願明細書第四頁第一三行ないし第九頁第一六行、昭和六一年二月二一日付け手続補正書第二頁第九行ないし第一三行)。

本願発明は、このような問題点を解消し、転写シートの一方の面の複写像を他方の面の複写像に対応一致するような位置に形成させるようにし、もつて複写シート両面に得られた複写像をバランスよく配置させるとともに、綴代を一方向に揃え、文章を読みやすくしたり、複写物の保管整理を容易ならしめることを技術的課題(目的)とする(本願明細書第九頁第一七行ないし第一〇頁第四行)。

(二) 本願発明は、前記技術的課題を達成するために特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成(昭和六一年六月一八日付け手続補正書二枚目第三行ないし三枚目第七行)を採用した。

(三) 本願発明は、前記構成により、「両面複写像を互に対応一致させることができ、しかも綴代が一方向に揃えられるので、複写書類のフアイルが容易になり、また製本も可能であつて、書類の字画像を読みかつ見易くし、その散逸も防止することができる」(本願明細書第二〇頁第一六行ないし第二一頁第一行)という作用効果を奏するものである。

2 審決は、本願発明と周知例記載の発明とを対比し、両者は審決摘示の特徴点において相違するがその余の点において一致し、右相違点(審決のいう特徴点)について審決摘示の理由により当業者が容易に推考できるとしたものであるところ、周知例、引用例に審決認定の技術内容が記載されていること、本願発明と周知例記載の発明との一致点、相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

原告は、審決の相違点についての判断は誤りである旨主張するので、まず相違点<1>について検討する。

本願発明は、従来の両面複写装置における問題点、すなわち、字画像形成位置が原稿シートの同一方向からみて対応一致している二枚の片面原稿シートから両面複写物を得る場合に綴代が一方向に揃わないことを解決するものであり、転写シートの一方の面の複写像を他方の面の複写像に対応一致するような位置に形成させるようにし、もつて複写シート両面に得られた複写像をバランスよく配置させるとともに、綴代を一方向に揃え、文章を読みやすくしたり、複写物の保管整理を容易ならしめることを技術的課題とすることは前記1(二)認定のとおりであり、本願発明がこれを達成するための技術的手段の一つとして、第一の給送指令よりも所定時間前後して給送指令を与える第二の給紙指令発生手段を具備させるものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、刊行物を印刷するに際して、用紙の表裏面の印刷像を対応一致する位置に形成することによつて両面の印刷像をバランスよく配置させたり、綴代を一方向に設けたりすることは本件出願前普通に行われていたことは、当事者間に争いがなく、両面複写物が印刷物であることは明らかであるから、両面複写物の作成において、両面の複写像を対応一致するようにしたり、綴代を一方向に揃えるという本願発明の技術的課題は、当業者が容易に着目する技術的課題ということができる。

一方、従来の両面複写装置において、複写シートの表面又は裏面をそれぞれ転写手段へ給送するに際して、原稿上の画像が複写シート上のバランスよい位置に転写されるように、レジスタローラへの給送指令のタイミングを制御することは、周知例にみられるように本件出願当時周知であることは当事者間に争いがなく、この場合、複写シートの表裏両面においてバランスよい位置は同じであるから、表裏とも同じ条件で複写されること、すなわち、給送の時機が表裏一致することは明らかである。

そして、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「ところで、書籍等の一枚の頁の裏表の字画像を以つて両面複写を行わせる場合がある。この場合には両面の字画像位置は互いに一致した状態にあり、従つて上述した如き画像のシフトを行う必要はなく、よつてこの場合には第1図および第7図に示す如くスイツチSWaとマイクロスイツチMS1側のモードを専ら用いる。」(第一二頁第五行ないし第一二行)と記載されていることが認められるから、本願発明における第一の給紙指令発生手段の給送指令による裏面への複写は、画像のシフトを必要としない場合に行うものであり、これは従来の両面複写装置における両面複写の態様と同様のものであるから、第一の給紙指令発生手段は、従来周知の両面複写装置が当然備えているものということができる。

以上の事実によれば、前記技術的課題の解決のためには、感光体上の画像の複写シートの裏面への転写の時機を表の面の場合よりは所定量シフトさせればよいことは、従来周知の両面複写装置において給送指令の時機を制御してバランスよい位置としていることから、当業者が普通に考えつくことということができ、その場合、引用例に記載された、複写シートの転写手段への給送指令の時機を制御して未記録空白部の大きさを自由に設定する技術、すなわち、基準信号が発生してから任意に設定可能な時間を計時する計時手段の出力により給送指令を発する給紙指令発生手段を適用し、所定量シフトさせる手段として、表の面の場合の給送時機に対応する第一の給紙指令発生手段による給送指令の時機を基準としてこれよりも所定時間前後して給送指令を与える第二の給紙指令発生手段を設けることは、当業者が容易になし得ることというべきである。

原告は、本願発明は、第二の給紙指令発生手段を具備することにより、複写シートの裏の面に対する画像の転写位置が表の面の転写画像を基準にして決定される旨主張する。

しかしながら、前記本願発明の要旨によれば、本願発明は、第一の給紙指令発生手段による給送指令が与えられる時機について要旨とするものでなく、第一の給紙指令発生手段が表の面の転写画像を基準にして決定される構成とはなつていないから原告の右主張は採用できない。前掲甲第二号証によれば、本願明細書には原告摘示の記載(第九頁第一七行ないし第一〇頁第八行、第一〇頁第一三行ないし末行、第一二頁第五行ないし第一二行等)の存することが認められるが、これらの記載は本願発明の一つの実施態様を説明するものであることが明らかであつて、この記載から第二の給送手段たる中間給紙台24からの給送開始時機の変更が、転写シートの一方の面の複写像を他方の面の複写像に対応一致させるために行われていると理解できても、このことから本願発明の要旨を限定して解することはできない。

また、原告は、本願発明においては、第一の給紙指令発生手段を基準にして給紙指令時機が定められていることを理由として、本願発明の第二の給送指令発生手段と引用例記載の空白長調整手段とは構成を異にする旨主張するが、本願発明の要旨に基づかない主張であつて採用できないことは前述したところから明らかである。

また、原告は、本願発明の技術的課題の予測性があるとしても、周知例にも引用例にも第二の給紙指令発生手段についての記載はないから、右手段は容易に考えつくことでない旨主張するが、審決は、周知例記載の発明には、第二の給紙指令発生手段が設けられていないことを本願発明との相違点として認定した上、右相違点について審決摘示の技術的事項に基づいて右手段を設けることは、当業者が容易に考えることができるとしたものであつて、その判断に誤りがないことは前述したところから明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

さらに、原告は、本願発明は、第二の給紙指令発生手段を具備することにより、複写すべき片面原稿に形成されている綴代と複写シートの表の面に形成させるべき綴代とを一致させることができる作用効果を奏する旨主張するが、このことは従来周知の前記技術事項から通常予測できる範囲のものにすぎず、格別のものということはできない。

したがつて、相違点(特徴点)<1>についての審決の判断に誤りはない。

3 次に、相違点<2>について判断する。

二つの様式がある際に、そのどれかを選択するための設定手段を設けることは、本件出願前慣用技術であること、複写シートの表裏両面に転写される複写像の位置ずれをそのままとすることが周知例に示されていることは、当事者間に争いがない。

原告は、本願発明における複写像の位置の修正は、第二の給紙指令発生手段を用いて行われるものであり、周知例及び引用例にはこのような技術的思想及び具体的な手段が記載されていないから、相違点<2>に係る本願発明の構成を得ることは当業者に容易になし得ることではない旨主張する。

しかしながら、本願発明の第二の給紙指令発生手段が当業者に容易に考え得ることは前述のとおりであり、該手段を設けた場合に、前記周知慣用の技術を適用して、複写シートの裏面に対する複写工程において、第一及び第二の給紙指令発生手段のいずれの給送指令に基づいて複写シートを転写手段へ給送するかを設定する手段を具備することは、当業者にとつて容易にできる設計的事項にすぎない、というべきである。

原告は、本願発明は、右設定手段を設けることにより、両面原稿、片面原稿のいずれを用いても、複写シートの一方向に綴代を揃えることができる旨主張するが、このことは従来周知の両面複写装置に前記周知慣用の技術事項を適用することにより通常予測し得る範囲のものにすぎず、格別のものということはできない。

したがつて、相違点(特徴点)<2>についての審決の判断に誤りはない。

4 以上のとおりであつて、本願発明と周知例記載の発明との相違点(特徴点)についての審決の判断は正当であり、本願発明は、周知例及び引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

複写すべき原稿を定位置に載置する原稿載置台と、感光体上に前記原稿の画像を形成する画像形成手段と、前記感光体上に形成された画像を複写シートに転写する転写手段と、前記感光体上の画像を複写シートの表の面に転写すべく複写シートを前記転写手段に向けて給送する第一の給送手段と、表の面に画像を転写された複写シートをいつたん収納する複写シート収納手段と、この複写シート収納手段に収納された複写シートの裏の面に感光体上の画像を転写すべく、再度、該複写シートを前記転写手段へ給送する第二の給送手段とを有する両面複写装置において、前記複写シート収納手段から複写シートを前記転写手段へ給送すべく第二の給送手段に対し給送指令を与える第一の給紙指令発生手段と、複写シートの裏の面に対する複写工程において第一の給紙指令発生手段による前記給送指令よりも所定時間前後して給送指令を与える第二の給紙指令発生手段と、複写シートの裏の面に対する複写工程において第一の給紙指令発生手段による給送指令に基づいて該複写シートを前記転写手段へ給送するか、第二の給紙指令発生手段による給送指令に基づいて該複写シートを前記転写手段へ給送するかを設定する手段とを具備する両面複写装置。

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